コスメ業界に畏怖の念を抱いている
ロクシタンというコスメブランドを皆さんはご存知だろうか。
女性の皆さんなら造詣に深いと思うが、かくいう私もロクシタンを常日頃愛用し、スポンサー契約を結んでいるといった事実は全くないのだが、今日はそんなロクシタンにまつわる失敗談を1つ。
高校2年の2月のことである。第一回緊急事態宣言が派出された時期と言い換えるとわかりやすいだろうか。
その日が高校2年生として登校する最後の日であったのと、バレンタインが近かったこともあり、女子たちはいつも以上におめかししてチョコを食みながらcorridorを闊歩していた。
全く関係ないんだけどなんでjkって大して仲良くない知り合い程度の同級生の誕生日をストーリーで祝ったりするのかね。
それはさておき、ありがたいことに私もチョコを仲が良かった女子二人からいただいたのだが、困ったことに気の利いたお返しが思い浮かばない。
「お返しとか全然いらないよ!」と言っていたものの、鵜吞みにしてはいけない。
本当にお返しをあげないとどうなるのか、簡単である。
来年の「チョコを与える人間リスト」から抹消される。
私とて来年も御下賜品を賜りたいのでお返しをするのは当然である。
しかしただ単にお返しをあげればいいってものでもない。
仮に「プリキュアなりきりセット」なるものを献上した場合どうなるだろうか。
来年のチョコを与える人間リストどころか記憶から存在を抹消された上に性犯罪者予備軍のレッテルを張られることになるのは想像に難くない。
試されている。
上記のように、緊急事態宣言で2か月ほど学校には行けないので食品系は避けるべきだろう。私の選択肢の中からまず「生魚」が消えた。
次に思い浮かんだのが化粧品である。しかし、「よく考えたら化粧品なんて自分の肌に合ったものを自分で購入してるよね??」という発想に至ってしまった。
いきなり「カネボウのオールインワンゲル」や「Sk‐Ⅱのコンシーラー」をもらって果たして喜ぶだろうか?
そもそも「カネボウ」が「オールインワンゲル」を取り扱っているかもわからない上になんなら「オールインワン・ゲル」なのか「オールイン・ワンゲル」なのかすらわからない。「オールインワ・ンゲル」の可能性も否めない。
「化粧品をあげれば喜ぶ」という発想は安直を通り越してもはや女性に対する侮辱といっても過言ではない。
そこで次に思い浮かんだ案は「ハンドクリームなどのコスメ」である。こちらもやや安直ではあるものの、持ち腐れにはなりにくいであろうことから、早速最寄り駅の駅チカに足を運んた。
入口のエスカレーターを上ると、ロクシタンがすぐ見えてくる。が、しかしながらロクシタンは正直値段が高いのだ。
少なくとも、一か月3,000円のお小遣いの貧乏高校生には。
ネットのロクシタンのサイトでは最安値のハンドクリームが800円であり、これを買うにしても二人分購入しなければならないので月の小遣いの半分以上がぶっ飛ぶ。
「まぁ緊急事態宣言下でどうせどこにも出かけないだろ。」と覚悟を決め商品に目をやった刹那、気づいてしまった。
値段がどこにも書いていないのである。
想定外すぎる。ズラーっと多種多様なハンドクリームが陳列されているのだが、どこにも値段らしきものが書いていない。私の覚悟は脆く崩れ去った。
今私が手にしているのがネットのロクシタンのサイトにあった800円のものと一致しているか確証がない。何なら1,500円のハンドクリームの方が圧倒的に多い。
私はその場に立ち尽くして悩んだ。
そして値段に気を取られていた私は忘れていた。
「「なにかお探しでしょうか?」」
そう、美人な店員によるセールストークである。
これこそロクシタンがよこした値段に次ぐ第二の刺客である。
あちらにペースを握らせてはならない。あっという間に高額商品をつかまされ一気に債務者への道を歩むことになってしまう。
「何かお探しでしょうか?」というフレーズは破滅へのプレリュードなのだ。
落ち着け
「友人へのギフトを考えているのですが」
「それならこちらにおすすめの商品がございます!」
私の言葉が足りなかった。緊張と恥ずかしさで「ホワイトデーのお返し」という枕詞を付けるのを忘れてしまった。
ハンドクリームのコーナーから引きはがされていく。
そこは店頭の季節限定商品が大々的に並んでいるスペースだった。
「こちらが今季限定の新作なのですが」
美人な店員がのたまう。ふと下を見やると親切にも値段が書いてあった。
「¥10,800」
何も見なかったことにした。
何やら美人な店員は厚紙に香水らしきものを吹きかけている。
そして嗅げと言わんばかりに手渡してきた。
「すごくいい香りですね!」
薄っぺらい感想を述べた。
この日は3月の中頃
つまり花粉の季節
私は花粉によって嗅覚を奪われた状態にあるのだ。
匂いなんぞわかるわけがない。仮に鼻が完全な状態にあったとしても香水の良し悪しを判断するなんてもっての外だ。柔軟剤の香りと香水の香りの違いすら多分わからない。
美人店員は続けた。
「「なんの香りだかわかりますか?」」
この店員は私の鼻が正常に機能していることを前提に問いかけてきている。
当時の見栄っ張りな自分に「わかりません」と答える選択肢はなかった。
「ラベンダー、、、ですか?」
「すごい!正解です!!!」
九死に一生を得た。
なぜ数ある花の中からラベンダーを私は選んだのか、なぜ3月限定の香水の香りがラベンダーだったのか、今となっては知る由もない。
「ハンドクリームを送ろうと思っているんですけど・・・」
話の流れをやや強引に切った。
「でしたらこちらがおすすめです!」
「こちらが今季限定の商品なのですが」
店員は厚紙にハンドクリームを塗り、嗅げと言わんばかりに厚紙を手渡してきた。
相変わらず嗅覚は機能していないが見るとほのかにピンクがかった色をしている。
パッケージには梅らしき花の絵が印刷されている。
色がピンクで梅の絵が描いてあるならすべからく梅だろう。
自信満々に「梅ですね」と答えた。
「桜です」
よく見るとパッケージには「Cherry Blossom」と書いてあった。視力が0.05の私にはわかるはずもなかった。
そそくさと「桜」のハンドクリームを二つ購入し、月の小遣いの105%を支払い店を後にした。
チョコをくれた二人には喜んでもらえた。