「音取り係」という恐怖の役職
そう、あれは中学校のころ。
音楽の授業には「音取り係」なる聞いただけで五臓六腑が捻じ切れそうになる忌々しい役職が存在していました。
先生はソプラノ、アルト、テノール、バスの4パートに歌の音程だのリズムだのを教えなきゃいけないので、先生が他のパートを巡っている間は各自で練習を進めなければなりません。
そこで練習を円滑に進めるために誕生した忌子が、この「音取り係」です。
具体的に何をさせられるのかというと、ピアノを弾かされます。(メロディーの部分だけだけど)
「ぬぁ~んだそれだけかよゴト師が」と思うかもしれませんが、この「音取り係」は各パート必ず1人選出されなければいけません。ソプラノ、アルトの女子パートはピアノ経験者が数人いたりするので音取り係には困ることはないのですが、問題はテノール、バスの男子パートです。基本的にピアノを習っていた男は稀有なので必然的に押し付け合いが始まります。
「おまえやれよ」
「いや、おまえがやれよ」
「おい平井おまえ吹奏楽部なんだからいけるだろ」
「今日の給食キムチチャーハンらしいぞ」
醜い。
テノールの音取り係(尊い犠牲者)は僕になってしまいました。バスの音取り係(敗北者)は、M野(ハリーポッターの組分け帽に確実に「アズカバン」と言われるほど性格が悪い人間)がなったようです。当時の僕はしいたけの次にM野が嫌いでした。
アズカバンの方はピアノをかじっていたらしいので特に問題はなかったのですが、
僕はピアノを習っていたどころか触れたこともありませんでした。こりゃ大変だ。
親に一生のお願い(3年連続8回目)を使ってキーボードを購入してもらい練習に励みました。
しかし、問題はこれで解決したわけではありません。
我々テノールの授業中の定位置はグランドピアノです。つまり、僕はグランドピアノを使ってメロディーを弾く必要があったわけです。ピアノ経験者各位にはわかると思うのですが、これの何がやばいって鍵盤がクッソ重いの。キーボードの比にならないの。強く押し込まないとショボい音しか出ないの。
さらに問題はまだあります。
歌声にピアノの音がかき消されて聞こえないって事態もしばしば起こりました。すると、周りの男子たちは「ピアノ聞こえないからリズムがよくわからない」と主張するわけです。てめぇら要求だけは一丁前だな。
仕方ないから僕はオクターブで弾くことにしました。
(上の写真のように、主に小指と親指でオクターブが離れた同じ音を弾く奏法)
もちろん簡単にできるわけがありません。鍵盤が重いので特に小指が死滅します。しっかりオクターブ分指が開かなくて、音が変になったりもしました。音が伸びないので、今度は足元のアクセル?みたいなやつも見様見真似で使うようになりました。
ミスると、Hという首が35°傾いたゾウリムシ教師にまぁまぁな勢いで怒られます。ほぼ毎授業怒られていた気がします。中2にしてこの世の不条理を理解しました。
中3の合唱祭の課題曲の音取り係は本来アズカバンM野がやる予定だったのですが、「塾行ってるからピアノ練習する時間がない」と言って音取り係をボイコットしやがりました。(成績は塾に行っていない僕の方が上でした。)ゾウリムシに「代わりに音取り係をやってくれ」といわれました。僕はM野の成績を可能な限り落とすことを条件に渋々応じました。僕の聖人ぶりには脱帽です。
とまぁ、それ以来独学でピアノを練習するようになりました。その甲斐あって弾ける曲は一曲もないのですが、次は戦場のメリークリスマスを練習する予定です。再来年のクリスマスまでには弾けるようになりたいです。